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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)155号 判決

一 請求の原因(一)ないし(三)の各事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(一) 審決理由中、本願発明の要旨、各引用例の記載内容がいずれも審決認定のとおりであること、および本願発明と第一引用例記載のものは弾性体と剛体の固着の構成およびこれに基づく作用効果の点はとも角、その余の点で一致していることは、当事者間に争いがない。

(二) 問題は、本願発明における弾性体と剛体の固着の構成と第一引用例記載のものにおける弾性体と剛体の固着の構成は同一であるといえるかどうかである。

1 まず、本願発明における弾性体と剛体の「固着」の構成をどのようなものとして把握すべきかという点について検討する。

(1) 成立に争いのない甲第一号証によれば、本願発明における弾性体と剛体の「固着」について、審決は、弾性体を剛体に嵌め込み、もつて弾性体の保持する圧力(内圧)により両者を支持するという解釈をとり、これを前提として、第一引用例記載のものと対比していることは明らかである。

(2) そこで、このような解釈が正当かどうかについて考えてみる。

ⅰ まず、成立に争いのない甲第二号証(本願についての特許出願公告公報)によれば、出願公告された本願明細書の特許請求の範囲には、「剛体2と別の剛体3とを同心円状に設け、これら両者剛体2、3の間に形成されるドーナツ状の空間に圧力気体を封入した弾性膜材料よりなる中空の環状弾性体1を嵌め込み、この環状中空体の内周部全域に亘つて前記剛体2と固着すると共に、この環状中空体の外周部全域に亘つて前記別の剛体3と固着してある弾性支持装置。」と記載されているのみで「固着」について限定がないが、それは一般用語としての「固着」が意味するあらゆる場合を含むのでなく、特定の技術的意義をもつと解しうるところ、その技術内容は右特許請求の範囲の記載のみでは把握できない。

ⅱ そこで、かような場合、明細書中の発明の詳細な説明と添付図面(〔編註〕省略)を参照して吟味しなければならないが、前記甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明欄には、本願発明の目的に関し、「本発明は、大きな負荷能力を有し乍ら、あらゆる方向に優れた弾性を発揮する弾性支持装置を提供せんとするものである。」(明細書第一頁左欄三三~三五行)と記載され、作用効果に関しては、「この様に、剛体2と剛体3との間に荷重Pが作用すると、弾性体を構成している弾性膜自体の剛性によつて、この荷重Pを支持するほか、環状弾性体1の押圧される下半分側にては、弾性体の変形により弾性膜は剛体3と接する面積が大となり内圧を受ける面積が減少すると共に、弾性体が剛体2、3と接していない側方部の曲率半径が減少し、もつて弾性体の弾性膜の張力が減少する方向に作用し、かつ環状弾性体1の引張られる上半分側にては、弾性膜は剛体3と接する面積が小となり内圧を受ける面積が増大すると共に曲率半径が増大し、もつて弾性膜の張力が増大する方向へ作用することとなる。従つて、これら弾性体の周部に亘つての張力の変化量の総和と前記荷重Pとが釣り合う位置にまで剛体2が変位することにより前記外力Pを支持する。そして、この荷重Pを支持する為の弾性膜の変化は弾性膜の全周部に亘つて生じる。従つて、本弾性支持装置は非常に大きな負荷能力と低いばね常数を有し、環状弾性体の環の直径方向中心軸方向並びに回転方向の荷重に対し、優れた弾性支持特性を備え、更に一つの弾性支持装置で内圧を適当に選定することにより、各種の負荷能力、ばね常数等を設定し得る特徴を有している。」(明細書第一頁右欄二八~第二頁一三行)と記載されていることが認められる。

これらの記載は、本願発明は、あらゆる方向に優れた弾性を発揮し大きな負荷能力を有する弾性支持装置を提供しようとする目的のもとに、二つの剛体の間に環状弾性体を介在させ、荷重に対してはこの環状弾性体の全周に亘つて生ずる張力の変化の総和が荷重と釣り合う位置まで荷重のかかつた剛体を変位させて支持するようにしたものであること、したがつて、環状弾性体と内外の剛体2、3とは環状弾性体に生ずる張力の変化を剛体2および3に伝達しうるような結合関係になければならないこと、換言すれば、環状弾性体と内外の剛体2、3とは強固に固着され、弾性体に張力が働いても弾性体が剛体から離れないような構成となつていなければならないことを示している、とみることができる。

しかも、前記甲第二号証によれば、本願明細書には第三、四図、第五図および第六図に都合三つの実施例が示され、右のうち第三、四図の実施例については「……弾性体の内周縁は剛体2の鍔4の内側に嵌込み、内圧によつて固着させており、弾性体の外周縁は輪状の剛体5を内蔵させた突起6を有し、剛体3はこの突起6を嵌込む溝を備え、……従つて剛体3と環状弾性体とは環状弾性体の外周縁を剛体3の溝に嵌込んで固着させている。……」(明細書第二頁左欄一九~二六行)と記載され、第五図の実施例については「……環状弾性体の内周は輪心の外周に形成している鍔4と、輪心の外周に嵌込んだ帯状環8との間に挟んで輪心と固着し、外周縁は輪状の剛体5を内蔵させた突起6をタイヤの溝に嵌込んでタイヤと固着させている。(明細書第二頁左欄三六~四〇行)との説明が記載されていることが認められ、また、第六図の実施例については固着構成についての具体的説明はないけれども、同図と第三図とをあわせ考えると、環状弾性体の内周縁は第三図の実施例と同様に剛体2の鍔の内側に嵌め込まれ内圧によつて固着されており、弾性体の外周縁も第三図と同様に輪状の剛体5を内蔵させた突起を有し、剛体3はこの突起を嵌め込む溝を備えており、剛体3と環状弾性体とは環状弾性体の外周縁を剛体3の溝に嵌め込んで固着していることが窺われる。また、前記甲第二号証によれば、右第三図、第五図、第六図の実施例においては、弾性体の内周縁にいずれも左右一対の小円が描かれており、この小円はこれらの図における弾性体の外周縁に設けた輪状の剛体5と同様のものの断面を表わしていることが窺われ、このことはこれら実施例のいずれにおいても環状弾性体はその内周縁に左右一対の輪状の剛体を有し、この部分を剛体2の外周縁の鍔の内側に嵌め込んで固着していることを推認させるものである。そうすると、これらの実施例は、右のような固着の構成によつて弾性体に生じた張力の変化を内外剛体に伝達し、軸方向の力に対しても負荷能力と弾性をもつようにしていることを示しているとみることができる。

以上のとおりで、本願明細書の特許請求の範囲の記載はやや簡易に過ぎるとはいえ、これと発明の詳細な説明欄の記載、実施例の図面等をあわせ考えると、本願発明における環状弾性体と内外の剛体との「固着」についての審決の解釈(二(二)1(1)記載)は正当を欠くといわなければならず、本願発明における環状弾性体と内外剛体との「固着」とは、両者を実施例のような適宜の手段で強固に固定し、これらが離れないようにして、張力の変化を内外剛体に伝達させる構成を意味し、単に圧縮力のみで弾性体を剛体に圧着させているような構成を含まないと解するのが相当である。

2 ところが、第一引用例における弾性体と剛体の固着は、本願におけるようなものではなく、弾性体がその内圧によつて剛体に圧着して、内外剛体間に回転力等が伝達されうる程度にこれを支持する構成のものとみられることは当事者間に争いがなく、したがつて本願発明における固着構造に基づく作用効果すなわち弾性体の張力の変化を利用して荷重を支える効果を奏しえないことは明らかである。

3 そうすると、本願発明と第一引用例記載のものは弾性体と剛体の固着の構成とこれに基づく作用効果の点で相違しているといわなければならない。そして、原告も主張している(請求の原因(四)3)ように、右の相違は、本願発明と第一引用例記載のものが技術思想を異にすることを示していることはこれまで述べたところから明らかである。

(三) したがつて、本願発明と第一引用例記載のものを同一構成よりなるものとした審決の判断を是認することはできない。

三 よつて、原告の本訴請求を認容する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

剛体2と別の剛体3とを同心円状に設け、これら両者剛体2、3の間に形成されるドーナツ状の空間に、圧力気体を封入した弾性膜材料よりなる中空の環状弾性体1を嵌め込み、この環状中空体の内周部全域に亘つて前記剛体2と固着すると共にこの環状中空体の外周部全域に亘つて前記別の剛体3と固着してある弾性支持装置

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